*引続き、試験当日の顛末編。なんだかズルズル長引いたこのシリーズも、今回にてホントに最後、毎度毎度の長文ながら、お付き合いどうもです。
*かくして、重い目蓋をこすりこすり、麹町駅に到着したたぬきさん。電車内で半端に突っ立ったまんま寝るもんだから、途端に眠気が五割り増し、身体がヘヴィ。でももう試験時間目前、仕方ないので本日二本目のリポビタンを購入、クイクイとやりながら、二次試験の時に発見した、どこか寂しげなリーマンが多数群れる公園で煙をもくもくやり、自分自身を強制的に再起動。そんなことしてたら時間一杯、たぬきは勇んで試験会場たる会社ビルに乗り込んだ。二本目のリポビタンがこれ予想以上に効き過ぎて、自分の席に着席した頃には、全身、特に顔面の体温が上昇、そんでもって紅潮、脈がいささか早まってきて、もう何だか分からんが、真っすぐ行ってぶっ飛ばす、右ストレートでぶっ飛ばす(幽白)、みたいな、妙な気合いが漲ったテンションになっていた。
*会社ビル、っても年季の入った小さなところだが、その五階、会議室のような一室にて最終試験は行われた。試験内容に関して事前に知らされたのは「実技/面接(三点に厳選した作品のプレゼンテーション)」ってことのみ、特に実技については一切が不透明、その場のインスピレーションに懸けるしか術はないわけで、試験開始時刻までの僅かの間、あれこれと妄想をして頭脳を柔らかくする。と、そこへ二次試験の際のエッシャーおねいさん、まぁこの人は大方、事務関係の社員さんなんだろうけど、その人がササッと入室、ご丁寧に鉛筆数本とケシゴム、それと問題用紙を配って回った。そんで特に注意事項等の説明もなく、試験時間は一時間ですよ、とだけ伝えられて試験開始。いざ、ってんでまずは問題用紙をめくるたぬき。配られた用紙3枚のうち、1枚が問題用紙。して、その問題とは、これ如何に。
*「株式会社(受験してる企業名)の企業広告を考えてください。」これが最終試験、実技部門の問題であった。注意事項として、「当社が新規クライアントを獲得するための広告として考えてください。媒体等は自由に設定していただいて構いません。」とのこと。また、「面接時にこの課題について簡単なプレゼンテーションをしていただきます。」との脅し文句まである。んんん〜、にゃるほど、そうきたかぃ。残りの用紙2枚はまるで白紙、どうやらこの2枚は自由に使用して、自分の考えを定着させてけろってことやな。きた。何を隠そう、たぬき実は、今回の企業さんについては、ウェブその他を駆使してそれなりに調べていたんである。予習済み。これは千載一遇、チャンス到来かもしんまい、と思った。試験開始直後は。
*取り敢えず、全体的な方針として、こんな鉛筆書きじゃあ完成度なんざ到底求められないし、白紙全体を様々なアイデアで埋め尽くし、発想力で勝負しよう、とたぬきは心に決めたん。従って、まずは会社の特色、例えばベテラン企業である故の地盤の強固さや、どこか品のあるシンプルかつストレートな作品が多い点、クライアントとの関係を大切にする社風、などと重要と思われる要素を箇条書きし、そこからあれこれ発想していったん。会社とクライアントとの関係を、長年に渡り本音で連れ添った夫婦に例えてみたり、某幽遊白書、蔵馬の「馴れ合いよりは刺激を」という名セリフをさり気なく引用して、自分で思わず吹き出しそうになったりと、出だしは順調、かに見えた。だがしかし、そのすぐ先には落とし穴があった。
*引っかかったのは、問題用紙にあった「媒体等は自由に設定していただいて構いません。」というフレーズだった。たぬき、ここまではそこそこアイデア自体は出てきたものの、それを定着させる媒体に関しては、ごくノーマルなポスターという考えしかしていなかったんである。されば、こっから媒体についても考えを膨らませていこうかね、と思ってはみたものの、何故かそれに対してのアイデアが枯渇、からっきし出て来ないんである。広告制作会社の企業広告、その媒体。これがなんとも実感がないというか想像・発想に難しく、思い浮かばない。この時点で試験開始から20分程が経過、たぬきに若干焦りの色が見え隠れし始めた。心臓が、なんかこう、揺れた。ゆっさゆさ揺れた。
*結局。アイデア10数点、媒体案はポスターのみしか挙げられぬまま試験時間が終了した。あわちゃちゃちゃ、これ、もしかすっとやばいんじゃねぇか、そんな不安、でもでもこれからまだ面接がある、取り返すのは不可能じゃない、そんな一抹の希望、それらが混ざり合った頭脳。なんだかパンパンである。そんな状態で暫し惚けていると、試験官からとうとう面接開始の宣言が。で、まずは部屋の右手角に座っていた、少しくチャラってる感じの受験生が呼ばれ、作品と思しきものを抱えて別室に入っていった。そのあたりから、来る。何がって、本格的な緊張。最初のうちは、まぁ至極緩やかな緊張、なんとか跳ね返せる程度かなって感じだったそれが、チャラってる男が退室して15分程たったくらいから、たぬきの心臓の鼓動は徐々にフェード・イン、クレッシェンド。その五分後には完全に四ツ打ちハウス、これが深夜のクラブなら、酒あおりながらに俄然踊っちゃうぜってな感じの、図太いビートに変わり果てていた。正直、ここまでデカい自分の心音は初めてで、自分で自分に戸惑う始末。そんな中、来た。何がって、たぬきの面接タイム。ずっと俺のターン。
*名前を呼ばれてゆらりと退室、面接室たる別室の扉の前で深呼吸。ここでようやく、右ストレートでぶっとばす、真っすぐ行ってぶっとばす(幽白)みたいな闘志が再び湧いて来て、ようっしゃ、やってこます、と勇んで扉を開いた。途端に折れた。何がって心が。
*いや、たぬき弱っ。とお思いの貴方、あながちその考察は間違ってません。お友達ならご存知かも知らんが、たぬきはプレッシャー、外圧に滅法弱い華奢な精神構造を誇っているのである。いや、別に誇りでも何でもないけどさ。だから何かしらのプレゼンやら面接の類はただでさえ苦手。不得手。そのうえ。そのうえ。そのうえ。なんと扉を開いたその部屋には、面接官が10人近く待機、長テーブルをズラリと取り囲んでおり、それはもう壮観っていうか正しく地獄絵図、面接官なんざせいぜい居ても5人くらいだろ、と完全にタカを括っていたたぬき、リアルに卒倒5秒前。やれん。
*やらかした。完全に、やらかした。憔悴。あああわた〜、えらいこっちゃ。もうほとんど思考停止。一寸先、っていうか正しく今が闇。そんな状態で、憔悴しながら前述の公園で煙草をもくもくやっていたのは、試験終了後のたぬき。もくもくやりながら、何度も何度も先頃の面接を回想するが、視界に入った風景は覚えているものの、もうほとんど、何を言ったのかという点に関しては記憶が曖昧。実にファニー。もう、やらかした。その言葉しか思い出せない末期症状。
*もう、まず第一声、失礼しますの一言から噛む始末、自分の大学名さえパッと出て来ず、なんとか座席に座るも心此所にあらず。沢山の偉そうな目ん玉がたぬきを見つめている。そう思うと自ずと行動も不可解になり、着席するも作品群の置き場に困りガサガサ、早速実技試験のプレゼンをしてみるも、言いたい事は山ほどあるのに言葉が追いつかず、しどろもどろ。噛む、訂正する、んでもまた噛む、の無限ループ、結局、言いたいことの半分も言えたかも怪しい感じのまんま、そんじゃあ持参した作品のプレゼンを頼むわ、ってことになって、いざ取り出そうとするも、作品パネルを順番に並べて用意してないもんだから袋をゴソゴソ、テーブルに並べる際も、無駄に丁寧にやろうとするもんだから「几帳面だな〜君は」などと突っ込まれ、別に悪気のある発言じゃないんだろうけど、たぬきの身体はさらに固まり、最初の作品でなんとかペースを掴もう、流れを持って来ようと足掻いた結果、なんとか喋れたものの説明が冗長になり過ぎ、この時点であと2作品あるのに既に面接時間は長丁場。内容に関しても、いろいろ突っ込まれれば突っ込まれる程にアドリブの弱さが露呈、え、とか、あ、とか沈黙とか、マイナスイメージを与えたであろう瞬間が連続し、緊張のあまり何故か靴下を引っ張る、などの意味不明な行為も頻出、なにより口の中の水分が枯渇し、余計上手く喋れなくなり、2作品目のプレゼンからはなんとか若干持ち直したものの、既にここまでの流れは挽回出来るとかそういう話じゃない感じと思い込み、そのせいかもう敬語すらまともに出て来なくなり、最後の最後に、昔この会社と縁があった父親の話になって、そこでちょっとしたジョークをかまし笑いを誘い、でもそんなんで到底安堵なんて出来ずにあわあわしたまんま、試合終了、ゲームセット。どうかね。えらい読みにくい文章だったでしょ。多分その感じは、実際の面接でのたぬきの印象に近い。とにかく、終始バタバタした。終始バタバタした。終始バタバタした。
*思い返すと上記のように、不味い点ばかりが鮮明に蘇って来て、やれん。喫煙所で暫しの間惚け、仕方ねぇ、帰るかこの野郎、ってんで駅のホームに降り立つも、電車に乗るのが億劫で、っていうか気力が追いつかず、ベンチで再び憔悴。ようやく乗車したものの、乗り継ぎするたびにまたベンチで惚け、そんなことやってるもんだから、一時間弱で帰れる道中を、倍くらいの時間をかけてなんとか帰宅、即、ベッドにバッサリ倒れ込み、ここでようやく何かの圧力から解放されたたぬきは、もう死んだように寝た。死んだ。
*死んでたら電話が鳴った。身に覚えのない、知らない番号だった。寝ぼけたまんま、出た。したら、会社から、先刻の面接官の一人からの電話だった。
内定が決定した、その報告の電話だった。
思わず素頓狂な声が出た。寝ぼけてたから、全く駄目だと勝手に思ってたから、憔悴しきっていたから、奇妙奇天烈なリアクションが素で出て、面接官の反応が若干変な空気になった。言われるがままに今後の流れの軽い説明を受けて、電話を切った。泣きも笑いもしなかった。ただただ、脱力して、たぬきはそのまま再びベッドに倒れ込み熟睡、その後入っていたバイトを無断欠勤してすっぽかし、お友達に多大な迷惑をかけ、気付いたら次の日の昼間。悪い夢かと思った。でも手元に、電話のメモが残っていて、ようやく少しだけ現実を実感し、即座に両親に電話をかけ、母ちゃんは大喜び、父ちゃんは素直じゃないから平静を振舞ってはいたけど、多分内心はことのほか安堵、かく言うたぬきもここで初めて安堵、背負っていた何か重たい物がどっかにぶっとんでったみたいな、でもちょっとだけ信じ難いみたいな、変な開放感を味わった。終った。こうしてたぬきの就活地獄巡りの旅は、終った。終りました。
*以上が今回の一件の顛末です。自分の記憶の整理と、精神的な決着、それを公開しながら楽しく読んでもらえたらいいな〜って感じで長々と綴ってまいりました。それが伝わってればこれ幸いです。まとめるのにやたら時間がかかったので、何時までこのネタ引きずってんだこの野郎、みたいな感じになっちゃったけども、実際はだいぶ心が切り替わってる最近です。なにより、卒業したら社会人、っていう実感がまだ薄い。うすっぺら。お友達の皆さんへの感謝の言葉は、クドくなるのでもうここには書かないけど、でもやっぱありがとう、とだけ言っておきます。シャイだから。でもそれは謝意。いや別にうまくない。
*さて、明日っからは早くも10月。ここからは心機一転、卒業に向けて気合いを入れ直していきたいと思っとります。たぬき小屋としても、就活編に区切りがついたので、なんかしらの新企画とかも考えています。乞うご期待。いや、あんま期待はしないで。それでは、また。あんま夜更かしすんなよ。